犬の混合ワクチンの基礎知識混合ワクチンには、パルボウイルスやジステンパーなど、犬同士でうつる感染症を防ぐものに加えて、ネズミの尿などから感染し、それが人にも感染することがあるレプトスピラ症(人獣共通感染症)などを予防するタイプもあります。お散歩で山や川、草むらに行く機会が多い子や、アウトドアが好きなご家族の犬たちには、レプトスピラを含むタイプのワクチンをご提案することがあります。なお、混合ワクチンは、狂犬病ワクチン(法律で義務づけられているもの)とは異なり、命に関わる感染症から犬自身を守るために接種する、大切な『任意の予防接種』です。混合ワクチンの接種証明書は、トリミングサロンやペットホテル、ドッグランの利用時に求められることがあります。なお、求められる接種の内容や間隔は、施設ごとに異なりますので、事前にご確認いただくことをおすすめします。当院では、混合ワクチンの接種スケジュールについて、WSAVA(世界小動物獣医師会)の国際的なガイドラインを参考にしながら、動物それぞれの体調や環境に応じた最適な間隔をご提案しています。気になることがあれば、どうぞお気軽にお尋ねください。混合ワクチンの種類当院では、混合ワクチンとして「5種タイプ」と「7種タイプ」の2種類をご用意しております。5種・7種ともに「コアワクチン」と呼ばれるすべての犬に推奨される重篤なウイルス感染症を予防するワクチンが含まれております。7種ワクチンには、5種ワクチンに追加してレプトスピラ症に対応するワクチンが2種類がはいっております。レプトスピラ症感染すると、発熱、食欲不振、嘔吐、下痢などの症状が現れ、重症化すると黄疸や腎不全、肝不全を引き起こし、死に至ることもあります。ワクチンの選び方ワクチンには副反応のリスクもあるため、必要以上の接種(過剰接種)を避けることも大切です。生活環境や体質に応じて、獣医師と一緒に判断しましょう。副反応や体調にご不安がある場合も、事前にご相談くださいませ。ワクチンの種類目的・特徴接種の目安5種ワクチン命に関わる感染症を中心にカバー基本となる予防セットすべての犬に推奨7種ワクチンレプトスピラ症への感染リスクに備えたワクチン湿地、農地、河川の周辺に暮らす子や山や大きい公園などの自然豊かなエリアへ遊びに行く子に推奨ワクチン接種のタイミング(世界小動物獣医師会 推奨)子犬(パピー)生後6~9週齢に1回目のワクチン、2回目・3回目はおおよそ3~4週間おきに接種(初回ワクチンシリーズ)16週齢(約4か月齢)を過ぎてからの3回目の接種が重要とされており、これによってしっかりとした免疫が期待できます。理由:母犬からの移行抗体の影響を避けるため生後6~12か月齢で、免疫がしっかり長持ちするように追加接種(ブースター)を行う必要があります。追加接種(ブースター)の目安としては、1歳のお誕生日までに済ませておくのが理想的です。子犬のワクチン接種では、「回数」と「タイミング」の両方が大切です生まれたばかりの子たちは、母親から「移行抗体」という感染症に対する防御力をもらって生まれてきます。この抗体は体を守ってくれる一方で、ワクチンの効果を打ち消してしまうことがあるため、生後6‐16週齢ごろまでは、ワクチンを打っても十分な免疫がつかないことがあります。そのため、初回ワクチンシリーズの「最終接種」は、16週齢以降に行うことが、WSAVA(世界小動物獣医師会)やAAHA(アメリカ動物病院協会)でも強く推奨されています。それでは、「最初のワクチンも16週齢まで待ってから打てばよいのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この時期に、パルボウイルス感染症やジステンパーウイルス感染症などに感染してしまうと、命にかかわる重い症状を引き起こすおそれがあります。これらの感染症はワクチンで予防できる病気ですが、免疫が安定する前に感染すると重症化しやすくとても危険です。だからこそ、「ワクチンは数回に分けて接種し、どこかのタイミングで確実に免疫がつくようにしていく」というのが、現在の標準的なワクチンプログラムの考え方です。成犬(初めて接種する場合)初回は、2回接種(3~4週間の間隔)+1年後に追加接種(ブースター)1歳のお誕生日あたりに、ブースター(追加接種)が「本当に免疫を定着させる」カギです16週齢以降に打ったワクチンで、一時的な免疫(抗体)はついているかもしれません。しかし、それが「長く記憶される免疫」になるかどうかは、まだ分かりません。この『免疫の記憶(記憶免疫)』をしっかりと体に定着させ、数年間にわたって病気を防ぐ力を保つためには、1歳頃にもう一度ワクチンで刺激を与える(=ブースター接種)ことが非常に大切です。この1歳時のブースターにより、初回シリーズでつくった免疫が「一時的な反応」から『長期記憶』に切り替わります。1歳のお誕生日の頃に打つブースター接種は、『抗体検査』で代わりになる?抗体価検査(抗体価の測定)は、ワクチンが効いているかを「一時的に」確認する手段として有効です。しかし、それだけで「ワクチンを打たなくてもよい」と判断するのはおすすめできません。なぜなら、抗体価が一時的に高くても、それが『記憶免疫』として十分に定着しているかまでは判断できないからです。WSAVAの2016年版ガイドラインでは、「抗体検査の結果にかかわらず、ブースター接種は行うべき」とされていました。一方、2024年版では、抗体検査の結果を判断材料の一つとして考慮するという選択肢も提示されています。とはいえ、抗体検査はあくまでも補助的な評価手段にすぎません。ブースター接種によって長期的な免疫がしっかり定着するという意義は、今も重視されています。つまり、「ワクチンを打つ」または「抗体価を測る」という二択ではなく、必要に応じて両方を上手に活用するという選択肢もあるのです。1歳までのワクチン接種が大切な理由成犬になってからは、『抗体価検査』で十分な免疫が確認できれば、追加接種を省略できることもあります。しかし、1歳までに必要なワクチン接種が完了していない場合、その後に免疫がきちんとついているかどうか判断しづらくなってしまいます。初年度のワクチン接種は、いわば『免疫の土台づくり』。この土台がしっかりできていると、将来のワクチン接種の間隔をあけたり、抗体価検査を活用したりと、柔軟な対応がしやすくなります。成犬(定期接種)5種ワクチンについては、コアワクチン(CDV・CPV・CAV)は、免疫が切れないように3年ごとが目安抗体価検査によって、免疫が十分であれば接種を省略可能7種ワクチン(レプトスピラ等のノンコアワクチン)は、抗体持続期間が短いため、年1回の接種が推奨されるアレルギー反応など体質によって接種内容の調整が必要な場合もあり※ 接種後に元気消失・顔の腫れ・嘔吐などの副反応が出ることがあります。気になる場合は事前にご相談ください。